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魔王と労働
金貨を得るには代価を支払わねばならない。今のキースに支払えるのは労働力か物品か。どこかで働くという選択肢は無しなので、物を売る、以外に答えはない。さて、何を売ればいいのか、とキースは腕を組んだ。身の周りのものは売りさばいてきたので、手持ちの売れる物はない。
とすると。キースは周りを見渡す。茂る草や咲き誇る花、そろそろ育ってきた畑の芋でもいい。木材を運んでもいいが、目立ちすぎるか。取りあえずは、魔王の服とグラスさえ手に入ればいいのだが、どうしようかと頭を悩ませていると魔王が斧を片手に洞窟から出てくる。
キースをちらと見ただけで森に入っていった魔王はやがて丸太を持って帰ってきた。何をするのだろうと見守るキースの前で魔王は丸太を組み合わせて、みるみる大きな机を作り上げた。魔王の工作第二弾である。釘を持っていないだろうなと思って見ていたが、魔王はどこでいつ手に入れたのか、石の楔で木をつないでいる。
「慣れたものですね」
「魔界ではこうして作る」
「釘の代わりは石なんですね」
「削って作る」
本当に慣れているらしい。あれほど強大な力と魔力を持っている魔族でも、机の出来栄えを気にしたりするなんて滑稽だ。魔界のあちこちで工作が行われているとすれば、なんだか魔界を見てみたくなる。
「お前は何をしている」
魔王がキースに話かけることも自然になってきた。内心ではほくそ笑んでいるが、それを表には出さずキースは苦い顔をして見せた。
「貴方の為にお金を稼ぐ方法を考えているんです」
「奪えばいいものを」
細かい所は人間臭いのに、やっぱりこういう所は魔族なのだと思い知らされるのも、もう慣れてきた。
「だいたい貴方の為のお金なんですから貴方も協力してくれません?」
「知るか、俺がこんな目にあっているのは貴様のせいだろう」
それはそうなのだが、何かふに落ちない。
「そうだ、貴方の工作、売れませんかね。あー、でも机を何個も運ぶのは大変か」
「俺が作るとでも思っているのか」
鼻をならした魔王は机を持って洞窟に戻ってしまう。最近の魔王はごそごそと何かしているのだが、それは全て自分の気に入った生活をする為の改善だ。キースに命令することは諦めたらしい。
『貴様は使えん』
もう何度も言われた言葉を思って苦笑する。
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