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魔王と労働

 仲間の女僧侶に言われた言葉を思い出したからだ。 『キースって男前だし強いし優しいけど、生活力ないから結婚には向かないね』  魔王を倒す旅の間に野宿生活も随分したが、食事や寝床に頓着しないキースに代わって、仲間が随分と過ごしやすい環境を作ってくれていた。 『キースに任せると草で寝て草を食べなきゃいけないから』  随分な言われようではあったが、仲間に任せた方が快適でもあったので、キースの仕事は力仕事と戦闘に絞られていたのだった。  ――だからマリーにも笑われたのか。  無人島で一人暮らしをすると告げて、唯一誘った師匠兼仲間兼友人の大魔法使いマリーはキースの誘いを一瞬で蹴った。 『お前と暮らす程枯れちゃいない』  マリーもキースのように人に関わらず、人里離れた山奥で弟子達と三人暮らしをしているから誘ったのだが。 「はー。頼るのは嫌なんだけどな」  今回ばかりはマリーを頼らねばならぬかもしれないと思うと気が重かった。何を言われるか分かったものじゃない。しかし、各地で家族を持ち、静かに暮らしている他の仲間を頼るのも心苦しかった。  しかも、用事が「金貸して」だ。 「やっぱり、もう少しなんとかしよう」  マリーに頼るのは最後の手段、とキースは釣り竿を取りに洞窟に戻る。取りあえず魚と木の実でも売ってみるしかない。  洞窟中では魔王が作った机と元からあったキース作の机を取り換えている所だった。食卓に据えられた魔王の机は大きくてなかなか便利がよさそうだ。キースの机は部屋の隅に寄せられ、魔王はその上に食材を置いた。調理台らしい。  ――だからマメなんですってば。  こみ上げる笑いをこらえて釣り竿を手にすると、魔王が眉を顰める。 「もうしばらく魚はいらないんじゃないのか」 「いえ、売る用にしようかと」 「貴様のそれで売る程になるのか」  鼻で笑われてかちんときたが、何でもない顔をしてみる。返事を返さず洞窟を出ると、魔王がついてくる。 「何です?」

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