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魔王とグラス

◇  島を出るのはどれくらいぶりだろうか。キースは妙な緊張を抱えて移動魔法を唱える。  島からなるだけ遠く、キースのいた城からもなるだけ遠く、それなりに復興が進んだ街といえば数える程しかない。  その中で一番大きな街へと飛び、念のために顔を布で覆う。魔王が倒れてから数年、未だその影は深かったが、それでもこの街は少しずつ平穏を取り戻しているように見えた。何より移民が多そうだ。魔王のせいで住む場所を追われた人々は世界を漂っている。この街にはそういう人々が多くいるようだった。自分の力がもう少しあれば、ここまで移民が増えることは無かったかもしれないと胸を痛めるのは、キースが一生抱えていく懺悔だ。  ――今は、魚を売らねば。  街の中心へと進むと、市を立てる準備をしている商人が多くいる。キースのように顔を布で覆った民族も珍しくなく、それには安堵した。  世界を回ったおかげで、だいたいの国の言葉を喋ることができるのも身を助けた。  一通り下見を終えて、話ができそうな商人に片端から声をかけた。突然商売を持ちかけてくる移民を、商人達はよくうかがっていた。キースも相手の反応をよく見ていた。できればこの先も長く付き合っていければ、金が必要となった時に助かるからだ。

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