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魔王とグラス
市場には装飾品もあった。この島にあるものでキースが何か作れるとすれば木彫りくらいだが、それは得意な方だ。旅の合間、心を静めるのにいくらか彫っていたし、孤児達に配ったこともある。売り物になる出来栄えのものが作れるかは疑問だが、やらないよりはマシだろう。
「――魚はどれくらい必要か」
「え、ああ、今日の四回分でグラスが一つ買えるくらいですかね」
これはもしかして、魔王の労働再びだろうか。それになんとなくだが、魔王の機嫌が良いような気もする。どうしたんだろうと思いつつ、キースは大事なことを思い出した。
「貴方、どんなグラスがいいんですか?」
「何でもいい」
「そんなこといって、貴方こだわりが強いから文句言うでしょ、絶対」
「何でもいい、貴様の好きにしろ」
「私は木の実の殻でいいと思っているんですが」
大真面目に言うと、魔王は嫌そうに目を細めて小さく唸った。
「硝子なら何でもいい」
一応言質は取った。文句を言われたら言い返すことくらいはできそうだ。魔王はそのまま洞窟を出ていった。驚くことに魚籠を持っていったので、今回は全部を任せていいのだろうか。そこまでグラスが欲しいのだと思うと、早く買ってあげたい気がしてくる。
「とりあえず、服は後回しですかね」
値段の高いものでなければ直ぐに買えるのだから、明日には買ってあげようと思うキースだった。
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