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魔王とウサギ

 ◇ 島には雨が降り続いている。  風が吹き荒れ、洞窟内にも吹きこんでくるのには辟易したが、何よりキースを悩ませるのは洞窟の岩壁を伝って流れ落ちてくる雨水だった。食堂の地面は水浸しで落ち着かない。そしてキースのベッドはほぼ地べたの高さなので干し草も濡れてしまって使えなくなった。  ここに来て初めての嵐だった。  気候のいい国だったので、すっかり油断していた。  洞窟から出られないので、閉じこもって嵐が過ぎるのを待つしかないが、キースの気分は鬱々としている。  魔王はといえば濡れることにも頓着せず、どこかへいってしまった。 「変なとこ細かい癖に、こんな所は無頓着なんですから」  濡れたベッドに横になる気にもならず、キースは食堂の椅子で濡れるのを避けながら時間潰しに木彫りをしている。  魔王のグラスを買った時市場で確認してみたら、需要がありそうだったからだ。女性の装飾品と子供向けの玩具ならなんとか作れるかもしれないと小刀でちまちま削っているが、こればかりを三日もやっていると疲れてくる。 「これが売れたら、今度こそ服を買おう」  洗ったものが乾かないので、余計にその望みが深くなった。  ――それなのに魔王はずぶ濡れで帰ってくるし。  洞窟の入り口を塞ぐ簡易扉を開けて戻ってきた魔王は銀の髪から水滴を垂らして、それはそれで美しいのだが、ずぶ濡れだ。それでもみすぼらしく見えないのは何故だろう。ぼんやりと魔王を見つめていると、魔王は黙ったままキースの向かいの椅子に座った。  ――珍しい。  一応、食卓に椅子は二つ用意しているが、向かい合って仲良く食事をすることはめったにない。お互い好きな時に好きなように食事をするし、魔王はいつも地べたに座るからだ。そうでなくても、魔王はキースを避けるようにこういう時は寝床にいってしまうことが常なのだが。  何を考えているのだろうと思いつつも、何でもない顔で話しかけてみる。 「体拭いたらどうです?」 「放っておけば乾く」  その理屈は分かるけれど、とキースは苦笑する。そんなびしょ濡れを気にしないくせに、魔王は調理台の隅に置いてあるグラスを持ってそこに木の実の絞り汁を入れているからだ。 「こだわる所、変ですよね」

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