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お風呂に入りたい
◇
島を襲った嵐はその五日後にようやくおさまった。
あまりにすることがなかったので、キースのウサギは随分数ができた。時折、気まぐれのように魔王も共にウサギを彫っては、その度に妙な空気になるのが何度か続いた。なんとなくこれはいけないと思い始めていたので、晴れたことを一番喜んでいるのはキースだっただろう。
「ああ、晴れってすばらしい!」
洞窟を出て大きく伸びをすると心も体も洗われたようにすっきりとする。
「皿を買いに行くのか」
洞窟を出てきた魔王がキースの腕を掴みながら、どこか機嫌良くそう言った。そんなに皿が欲しいのか、と思ったが今はそれを笑い飛ばす余裕がない。
最近。魔王はやけにキースの腕を掴んでくる。嵐の日、キースの指を噛み切ろうとしてから毎日だ。何かを企んでいるのだろうとは思うが、それが何なのか分からない以上は警戒し続ける他ない。魔王の手を振り払って、睨みつけると、魔王は鼻を鳴らしてから、手を伸ばしてきた。
「出かけるのだろう。結晶をよこせ」
「まだ行きません」
魔王を今の状況におとしめているのは、キースの魔法力のせいだ。それに縛られているという事実を認識せざるを得ない結晶の存在を、魔王は嫌がっていたはずだ。こうも真っ直ぐに欲しがるなど、やはりどこかおかしい。
――私の不在時、何かしているのか?
それを見ることはできないが、警戒は怠らぬ方がいいだろうと改めて思う。本当ならしばらく目を離したくはないが、今日はどうしても市場にいきたかった。
「皿は今度ですよ」
「他に何がいる?」
「服です」
「またそれか」
魔王は途端に興味をなくしたように、海の方へと姿を消した。魚でも捕るのかと、今は放っておく。とにかく今は服を買いにいきたかった。
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