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お風呂に入りたい
「風呂か。まあ、悪くない」
嬉しい誤算、魔王が食いついてきた。身なりは気にしないが、風呂は好きらしい。身を清めるのは、山上の川で行ってきたが、そろそろ温かい湯につかりたい。島を探索してみたが温泉はみつけていないので、最早作るしかないのだが、魔王が乗り気であればありがたい。
「それで、温泉はどこだ」
「いえ、作るんです」
「温泉をか」
「貴方、大きめの箱を作ってくれませんか? 浴槽です」
「この俺が」
「工作得意じゃないですか」
「工作……」
水なら準備できる。魔王の作った浴槽に水を入れ、火を呼ぶ魔法で沸かせば風呂になるだろう。
「貴様、いつか必ず引き裂いてやる」
物騒な文句を言いながらも、魔王は近くの木を切り倒しみるみる丸太の浴槽を組み上げていく。さっきまでキースを殺そうと剣を振っていた姿とはまるで別物だ。どちらも、魔王。
――私は、どうしたいのだろう。
本気でこんな生活を続けていくつもりなのか。この「魔王」と。何故、他の人間ではいけなかったのか。封印を解いてまで見たかった青は、本当はこれではないのに、何故
――私は時折、満ち足りてしまう。
そんな自分に戸惑ってしまうのだ。
「キース、湯を張れ」
いつの間に浴槽を作り終えたのか、魔王がキースを睨んだ。寝返りだって打てそうな大きな浴槽は、魔王の好みだろうか。
我に返って、魔法で水を呼ぶ。こんなことに精霊の力を借りて申し訳ないとは思ったが、今回だけは許して貰おう。
「これを火で沸かすつもりか」
「いけませんか」
「魔力の無駄遣いだ」
「魔法ですけど」
「黙れ」
魔王は近くにあった両手で抱えられる程の岩をキースに投げる。
「これを火で炙れ」
「なるほど、これを水に入れるんですか」
「黙ってやれ」
肩を竦めながらキースはしばらく魔王の投げてくる岩を魔法火で炙り続けた。
「ところでこれ、どうやって入れるんです?」
「馬鹿か」
魔王は躊躇なく熱で真っ赤に染まった岩を掴むと浴槽に投げ入れる。
「熱くないんですか」
「熱い」
魔王でも熱いのか、と吹き出したキースを一瞥して、魔王は服も脱がずおもむろに浴槽に飛び込んだ。
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