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魔王の事情 2

 まだ魔界でくすぶっていた頃は、今のように洞窟に居を構え過ごした。魔王になれば自分の好むものだけで周りを固めてやろうと決めていた。  その頃を思い出すと多少気が滅入るが、まさかまた同じような日々を過ごすとは。 「キース……必ず引き裂いてやる」  キースの白い肌を裂いてその血をすする。そのことだけが今の魔王の望みだ。まだ少しの力も蓄えられてはいないが魔王はその望みを捨てるつもりはなかった。  そんなことを思いもしないのか、キースはまるで腑抜けのようだった。自分の野望を砕いた存在は、まるで普通の人間のようによく笑う。戦いの片鱗を見るのは、ほんの僅かな瞬間だけだ。  力が戻らなくても首をへし折ることくらいできるのではないかと思うが、そういう時には火を灯したような目で魔王を睨んでくるので、完全な腑抜けでもないらしい。  ――もう少し、力が戻れば。

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