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魔王の事情 2

 その願いは、思わぬ形で魔王の元に訪れた。  キースが島を離れて街までいくという。魔王が硝子を欲しがったからだと文句交じりに言われたが知ったことではない。  キースの魔法力で形を保っている魔王は、キースの魔法力が足りなくなると灰になるという。普段はキースが側にいるので勝手に魔法力を吸収しているらしく、この島内であればそれが切れることはないだろうとキースは言った。けれど、遠く街まで行くとなると話は違うらしい。  キースは魔王に石のようなものを持たせて、街へと向かった。  キースがいなくなると、確かに体を包んでいた温い膜のようなものが薄くなったと感じる。完全になくなった訳ではないのは、キースが置いていった石のせいだろう。小袋に入れられたそれを取り出すと、それは空の色をした宝石のような結晶だった。 「これがキースの魔法力というのか」  口惜しいことに、美しいと感じて舌を打つ。魔王を打ちのめした根源が、これなのだ。小指の先よりも小さなそれを握り締めると、指先が熱い。 「キース」  強く握ると、指先から何かが流れ込んでくるような感覚にかられた。心地の良いものではない。それでも、微かなそれは指先から腕をめぐり肩までも熱くする。魔王はじっと手を見つめた。  これは、力だ。  普段キースが魔王に供給する魔法力は魔王を存在させるぎりぎりの量に調整でもされているのだろう。しかし、こうやって凝縮された魔法力を吸い取ればどうだろう。それは僅かではあるが確かに魔族の「力」を取り戻させた。 「吸い取れるのか?」  結晶から魔法力の流れを吸い取ることを意識して握りしめると、さっきよりも強い流れを感じた。 「これはいい」  この小さな結晶から吸い取れるならば、キース本人からも絞り取れるのではないか。魔力ではないので魔界の力は使えないだろうが、魔族の持つ元々の力を取り戻せはしないだろうか。そうすれば、キースとも剣や体術であれば渡り合えるだろう。  どこまで吸い取れるか試すうちに、結晶の色が濁り、魔法力の熱が下がってくることに気付く。魔法力が尽きてきたのかもしれない。取り込んだ魔法力でどこまで体を保てるか、まだ分からない。魔王は舌を打って寝床に横になった。  しかしこれは収穫だ。  ――待っていろキース。

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