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魔王は魔王

 最近、おかしい。  キースはそっと魔王をうかがう。  魔王は洞窟の前で木を燻り、その煙の熱で鼠の燻製もどきを作っている。作り方を簡単に説明しただけなのに、もう実行に移しているのかと驚いているが、おかしいのはそういうことではない。  見つめていることに気付いたのか、魔王が顔をあげた。 「何だ」 「いえ、その、貴方って本当に食にマメだなと」 「貴様が無頓着すぎる。人間のくせに」  それは何度となく、まるで挨拶のように言われてきたが、腹が満たされればいいのだから仕方がない。最近では魔王の方が食事の準備に時間をかけている。時折気まぐれのように分けてくれるが、確かにそれは美味しかった。  あまりにうるさいので、魔王の食器は少しずつ増えた。グラスと皿と椀、平鍋も買わされた。市に通う回数が増え、顔見知りが増えた。キースの素性を探る者も出てきそうなので、そろそろ新しい国の市場へ替えなければならないかと思う。  こんな暮らしを、もう百日以上続けているだろうか。魔王はよく喋るようになった。 「川の向こうに赤い実がある。あれを取ってこい」 「好きなんですか?」 「酒にする」 「作れるんですか」 「魔界でも作った」  工作どころか酒造まで。キースは酒をあまり飲まないが、魔王はよく欲しがった。それでも買わないので、ついにしびれを切らしたのだろう。 「魔王酒」  思わず吹き出すと、いつの間に側にいたのか、魔王に腕を掴まれた。  最近おかしいのは、これだ。  やけに触れてくる。  最初は殺そうとしているのだと身構えたが、魔王の手に力がこもることはなく、手首と手の甲、それから指を撫でるだけで魔王の手は離れていく。今だってそうだ。手首の裏に爪を立てられているのは痛いが、危害を加えてくることはなさそうで、キースは心底戸惑っている。 「何を、考えているんですか」  何度問うても、魔王は喉の奥で笑うだけで、答えない。そのうち飽きて離れていくのだからと、最近は好きにさせている。それに、魔王の肌は快かった。  ひやりとした指で指を撫でられると、ぞくりと背中から何かが駆けあがってくる快楽に襲われる。  ――私は何を考えているのか。

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