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魔王は魔王

 振り払わなければ危険だと、勇者としての危機感が働いているというのに、すぐに魔王の手を振り払えない。魔王は執拗に指先を撫でてくる。 「貴様の肌触りは悪くない」 「っ、放せ」  魔王の言う「悪くない」は褒め言葉だ。そのことに気付いて、また背中がぞくりと震えた。  ――やはり危険だ。  魔王の手を振り払うと、魔王は気にすることもないようにまた燻製に戻っていく。  ――これは何だろう。  魔王がちまちまと料理をしたり工作をしたりしているのを見ると、吹き出すくらい面白いと思う。この暮らしに不満はない。  だから忘れそうになる。  これが偽物とはいえ「魔王」だということを。

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