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魔王は魔王

 ◇  その日、魔王は上機嫌だった。 先週仕込んであった果実酒ができたらしい。 「意外と早くできるんですね」 「果実の種類による」 「へえ、物知り」 「貴様はもっと人間界を知れ」  魔王が勇者に説教。吹き出すといつもは眉を顰める魔王が今日はおとなしい。よほど酒のできが良かったのか。グラスに注いで松明の火に透かして色を見ている。  ――本当に酒職人じゃないですか。   あの酒には「魔王」と名付けようと一人で勝手に決めて、キースは自分の食事準備にかかる。干した魚を焼いたものと、少しの果実。芋が収穫できたので、それも焼いた。 「貴方も芋いります?」 「潰して牛の乳を混ぜて焼いたものならな」 「そんな面倒なことしませんし。牛いませんし。本当貴方って」 「貴様が無頓着なだけだ」  いつもならここで睨まれるようなお約束の会話だが、魔王はキースを睨みはせず手にしていたグラスをキースに向かって差し出した。 「飲むか」 「えっ、いいんですか」  魔王の食への執着を十分知っている身としては、本当に驚きだ。このグラスを魔王が気にいっていることも知っている。 「少しだけだ」  受け取って果実酒に口を付けると、豊かな香りと同時に甘酸っぱさが広がる。果実酒を飲んだのは久しぶりだが、こんなに美味いものだったろうかと首を傾げた。グラスはすぐに取り返されたが、魔王は満足そうに言う。 「硝子で飲むと美味いだろうが」 「そうですね。貴方、魔界で酒屋だったんです?」 「馬鹿か。まあ、人間界の果実は芳醇だから比べ物にならんものができるな」  口数が多いことは珍しくやっぱり機嫌がいい。なんとなく嬉しくなりながら、キースは自分の干魚に口を付ける。これが悪いなど今でも思わないが、魔王の言う通り自分は頓着無過ぎるのかもと少し思った。 「貴方は、何故、そんなに人間界に詳しいんですか」 「馬鹿か。知らぬものを手に入れたいと思うはずがないだろう。魔界で幾分調べたし、人間界に来てからも調べた」 「勉強熱心」  思わず声をあげて笑ったが、魔王は気にしていないようだった。 「人間は愚かで脆弱だが、ものを作る力くらいは持っているようだな」 「人間を侮辱しないでください。人間は思慮深く優しい美しい生き物です」 「貴様がそれを言うか。その人間に追われ殺されかけた貴様が」

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