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魔王は魔王
魔王がさも楽しげに笑う。
何故、そのことを知っているのだと思ったが、キースが作った存在なのだから、こちらのことを知っているのも当然かもしれないと思う。
けれど、最近魔王の口から出る言葉はキースの知らない魔界での事情などで、これは本当に偽物なのかとどこかで思ってしまうのも本当だった。
「私はそれでも人間を好きですよ」
「理解できんな。貴様程の力を持っていれば、俺の右腕にしてやるものを」
「誰が魔王の配下になど。私を誰だと思っているんです?」
「人間に殺されかけた勇者だろう」
じわじわと体の熱が上がる。魔王相手に苛立っても仕方ないとは思うのだが、あまりに魔王との生活が平穏だったので、目の前の存在が有害そのものだということを、どこかへ置いてしまっていたのかもしれない。
「貴方はその人間に殺されかけた魔王でしょう」
「だが、まだ生きている」
「私の力がなければとうに滅びている」
「ならば何故、俺を殺さない? 貴様も愚かな人間だということだ」
痛い所を突かれた。キースが魔王を殺せず、今なおこんな生活をさせてまで手元に置いておく理由……それと向かい合うことはしてはならないという危機感だけはある。それこそ、人間として。
「ただの――暇潰しですよ?」
それに、これは偽物なのだ。
「俺を乞うただろう? あの封印だかの空間の中で、俺は貴様の声を聞いた。貴様は間違いなく俺を乞うた。俺に人間を滅ぼさせるつもりで俺を殺さない、そうだろう」
「違う! そんなつもりはない。私は、ただ」
――ただ、その青が見たかったのだと、そんなことを言えるはずがない。
キースは言葉を飲み、それを肯定と取ったのか魔王は口の端をゆがめて笑う。
「貴様の願いどおり、人間界は俺が貰う。貴様もきっちり殺してやる。期待していろ」
「――何故、そんなに人間界が欲しいんですか」
「言っただろう。貴様らは魔族の成れの果てのどうしようもない存在だが、築いた文明には使えるものがある。魔族は光を使いこなせないからな。貴様らが築いた使えるものは、有意義に使う」
酒のせいなのか、今夜の魔王は饒舌だった。その言葉の中で、キースはどうしても許せないものがあった。
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