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魔王は魔王
どうしても、聞き逃せない言葉があった。
「待ってください。人間は魔族の成れの果て? ふざけたことを言うのは、止めてください」
「人間はそんなことも知らんのか?」
「その、戯言を、やめろ」
「キース、貴様は疑問に思わなかったのか。魔族と人間の見目がどうしてこんなに近いと思っている。どうして同じ言葉を操っていると思っている。貴様ら人間は魔界で生きていけない程に弱い魔族の子孫だ。人間界に逃げ込み細々と暮らしていたらよかったものを、魔界から逃げ出したことすら忘れまるで人間界では王のようにのさばっている。愚かでなくて何だというのだ」
魔界から逃げた魔族の子孫?
そんな戯言を信じるはずもない。
けれど、魔族と見目が近いことは気付いていたし、魔王と暮らしてその生活環境や習慣などが、そう変わりないことも知っている。
けれど。
「そんなことは、認めない。魔王、その言葉を訂正して貰おうか」
腰に下げている剣を抜いて魔王の眼前に突き付けると、魔王の銀の瞳がゆらり揺れた。気まぐれな神が筆で引いた線のように整った唇が邪悪な笑みを作る。
「キース、貴様のそんな顔を見るのは久しいな」
「人間を魔族の子孫などと」
「事実から目を背けるとは、やはり愚か」
魔王は薄い笑みを浮かべると、キースの腕を掴んで突き飛ばす。壁に叩きつけられた反動を利用して飛びかかったキースに、魔王は剣を構えてそれを受けた。金属のぶつかる音が洞窟に響き、火花が散る。
時折、手合わせのようなことはしていたが、今のキースは八割本気だった。それを魔王は顔色一つ変えず、片手で受けている。
魔王の魔力は奪っている。元々の力があるとしても、ここまでの力は無かったはずだ。
――どういうことだ。
知らぬ間に力を付けているとでもいうのか。
――魔力も無しにどうやって?
片手で魔王の剣を押さえながら、もう片方の手に魔法を呼ぶ。風を司る精霊の力を借りて作りだした小さな風の塊を魔王の脇腹に叩きこむ。
今度は魔王が洞窟の壁に叩きつけられる番だった。手加減を忘れたから、一瞬殺してしまったのではと思ったが、魔王は壁に背を預けたままで、不敵に笑ったのだ。
「やはり貴様の魔法力は悪くない」
「なに?」
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