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魔王は魔王

 今打った風の魔法が魔王の手で受け止められていると気付いた時には、その塊を脇腹に受けていた。弾き返されたのだと知った時にはもう魔王がキースの首に剣先を突き付けている。 「いい顔だな、キース。もっとそんな顔を見せてみろ。ああ、人間共のどれかを殺せば、見られるのか?」  目の前が赤く染まる。  ――これは駄目だ。これは魔王なのだ。偽物でもなんでも、魔王は魔王なのだ。 「もう――お前を、殺す」  それが、この状況を生んだ自分の責務なのだ。  魔王の言う通り、自分が愚かだったのだ。もう一時でも早くこれを殺さねばならない。  炎の魔法を呼ぶ。  気付いたのか魔王がキースの肩に剣を刺した。  構わず呪文を続けるが魔王の手で顔を掴まれ口を塞がれた。 「俺はまだ貴様を殺さん」  ――私が死んだらお前も死ぬからな。  手で口を塞がれたくらいで呪文を止めることはできない。口の中で小さく唱え続け、呼びだした炎を魔王の腹にぶつける。魔王はキースから飛びのくと、呻きながら膝を折った。 「キース、貴様」 「お前の言う通り私が愚かだった。お前を生かした私が」 「そうだ、貴様は俺を生かした、何故だ。俺を乞うたのは何故だ?」  耳を貸してはならない。自分の不始末の後始末くらいつけなければ。  炎をぶつけてやったというのに、魔王は燃え上がらない。いつのまに、こんな力を取り戻したのか。危険だ。これは、本当に危険なのだ。  魔法の炎をもう一度呼びだそうとするが、魔王に刺された肩が動かない。この魔王を焼きつくす程の炎を呼ぶには両手が必要だ。片手で呼ぶこともできるが、抑えきれずキースの腕もやられるだろう。それでも、するしかない。  呪文を声で編み左手をかざす。魔法力を精霊に捧げ精霊の助けを得る。それが魔法だ。呼びだした炎が左手に現れ、支え切れないその手をじりじりと焼いた。 「っ、魔王、これで、終わりだ」  魔王は疾風のように駆けるとキースの左手を炎ごと掴み取る。 「なに、を!」 「これでは焼き殺される」  魔王は掴んだキースの手を炎共々、洞窟の外まで投げつけた。地面に叩きつけられ、まだ呼び出しきっていなかった炎が空に霧散する。 「魔王!」  身を起こしながら怒号をあげると魔王がふらふらとキースの元に現れ、起こしかけた体は地面に押し付けられた。

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