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魔王は魔王
「馬鹿か。しばらく両手を使えまい」
キースの左手は肘まで焼け爛れている。
「回復魔法くらい、使える」
「あの炎が貴様の回復魔法で治せるはずがないだろう」
よく知っている。キースは回復魔法が得意ではなく、簡単な傷を治すくらいしかできなかった。仮にも戦い合ってきたのだから、こちらの戦力を分析くらいはしているのだろう。魔王は存外マメなのだということを、キースはもう知っているのだ。
魔王の手が焼けた肌を撫でて痺れる痛みに冷たい汗が流れた。
「貴様の肌は悪くなかったというのに」
「っ――放せ」
殺される。
恐怖はなかった。キースを殺せば魔王も死ぬ。そしてこの道楽のような生活の全てが終わる。
悪くなかった、そうかもしれない。
キースはそっと目を閉じた。
初めて魔王を見た時に感じてしまった、どうしようもない背徳を最後まで捨てられなかった。
『魔王は、美しい』
だから、その青を見たくなった。
心を奪われたのだ。家族を仲間を、多くの人間を殺し奪った魔王に、キースは確かに。
目をあけると、見下ろしてくる魔王の手が顎にかかる。近寄ってくる銀の髪がキースの耳を撫でる。
――やっぱり、綺麗だ。
吸いこまれるような銀の瞳がやけに近い。
おさえこまれているのは分かっているが、これは何だと思った瞬間に、唇が震えた。魔王の口が触れたからだ。
「っ、ん……!」
抗う間もなく、魔王の口がキースの口を塞ぎ、そのまま強く吸われる。
「ん、ぅっ――」
体内から、何かが吸い取られている感覚に背中から震えた。全身が粟立って、知らず、目じりに涙が浮かぶ。これは危険だと身体中が訴えているのに、キースは指一本動かせないでいる。
――これは、なんだ……。
魔王はすぐ顔をあげると、まじまじとキースの顔を覗き込んでくる。抵抗しないことを訝っているのかもしれないが、キースは動けなかった。
「なんだ、これは」
魔王はそうこぼすと、またキースの口を吸う。
咥内に冷たい舌が差し込まれ、中という中を探られる。
「ぅ、ん、ま、ぉぅ」
こぼれた声は自分でも情けない程に力なく、キースはそのまま意識を手放してしまった。
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