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魔王が看病

 小さく礼を口にすると、今度は椅子ごと抱き上げられそのまま寝室に運ばれた。 「魔王?」 「人間のことは分からん。寝ていれば治るのか?」  そんなに単純ではないが、今眠りたいのは真実だ。キースが静かに頷くと、魔王はキースをベッドに下ろし舌を打つ。 「俺との戦いの中でもこれほど弱ったことはないだろう? 魔法使いを呼べ。あれなら治せるのだろう」  魔法使いに会いにいけば、この火傷は治して貰えるだろうが、この状況を上手く説明できる自信がない。どれだけの怒りと説教を食らうか。この状況をあの厳しい人が許すはずがない。黙って目を閉じたキースの額に魔王が触れた。ひやりとした肌が心地よい。離れていくのが惜しくて、思わずその手にすがり、我に返ってその手を離す。  ――私は本当に弱っているのだな。  そっと目をあけた先、魔王が目を見開いていた。銀の瞳がこれほど綺麗に見えたことはない。それが少しずつ近づいてくる。両耳に魔王の髪がさらりと落ち、唇が触れた。  また、口を吸われている。  ――なんだろう、これは。  抗う力もない。そのままを受け止めると、魔王の舌がざらりとキースの咥内を舐めとる。肌と同じで少し冷たい感触が心地よかった。知らずその冷たさを欲して舌を絡めると、痛い程に吸われた。 「んっ」  吸われているのは、何なのか。  ――魔法力かな。  魔法力を吸い取ることができるなど、聞いたこともない。そんな研究はなかったはずだし、キースも実感したこともない。魔法力をどれ程自らに蓄積できるかは個人差になる。それが大きければ大きい程に魔法力が強いことになる。魔法使いはその量が極端に多いのだが、キースもそれなりに強い。そうでなければ灰の魔王を生かすことなどできない。  理屈で考えるならば、その魔法力を操ることができれば魔王はキースに頼らず生きることができるのだろう。  そういえば魔王は思ったより力を持っていなかったか。魔力がないはずなのに、キースと渡り合っていなかったか。  ――私の魔法力を溜めていた?  それを自らの力として振るうことができるようになったのだとすれば、立場が逆転する。もし本当に魔王が魔法力を吸い取ることができるとすれば、こんな危険なことはない。

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