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魔王が看病

 魔王の口は、まだ外れない。  キースの咥内を蹂躙し、舌を絡めとり、吸いついて来る。 「っ、ん」  背中が粟立つ。魔王にとっては魔法力を吸い取る行為でも、キースにとっては違う。これはただの口付けだ。  どれくらいぶりかもわからない欲がうずく。舌をいたぶられることで欲がうずくなど、知らなかった。  ――駄目だ、逃げないと。  分かっているのに、体は動かない。快楽など感じてはいけないと分かっているのに、ぞくぞくと震える身体を止めることもできない。 「んぁ」  ようやく舌が解放された時には、無意識に息が乱れた。ただでさえ熱に浮かされた体が更に熱を持った気がする。  ――これは、駄目だ。  うずく身体を必死に押さえているというのに、魔王は未だキースの上からどく気配もない。息が触れるような距離でキースを見つめている。 「も、ぅ、寝かせて」  ようよう言うと魔王がやっと離れた。 「キース……」  呼び声がやけに優しく聞こえるなんて思ってはいけない。触れてくる指の感触が心地よいなど、そんなはずがない。全ての感情を奥へ奥へとしまって、キースは目を閉じる。  ――私は弱っている。今は回復しないと。 「貴様、俺に何をした……?」  独り言のような魔王の声に耳を貸してはいけない。キースはそのまま、また深い眠りについた。

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