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魔王の事情 3
キースの息は切れ切れで炎で焼かれた肌は熱い。死にかけているのではないかと思う程なのに、尚、睨んでくる黒い瞳の炎は消えていない。どこまで忌々しいのか。その瞳が、そっと閉じられる。
――もっと、見せろ。
その静かな炎を。
顔を寄せると、キースはそろりと目をあけた。こんなに側でこの目を覗いたことはない。初めて見た時から気にいらないと思った。これまでに打ちのめしてきた魔族とて、こんな目で魔王を見なかった。一片の恐れも持たぬその光を、魔王は
――美しいなどと。
自らを殺したその光に見惚れるなどと、認める訳にはいかないのだ。
――っ、違う、俺はキースの目など、知らん。魔法力を、そう、魔法力を吸わねば。
すぐ近くに簡単に体内を探れる場所があるではないか。魔王はキースの口を、自らの口でこじ開けて、その場所を吸った。
「っ、ん……!」
キースのくぐもった声が聞こえる。
その場所は触れたことのない程に柔らかく快かった。それから、甘い。
「ん、ぅっ――」
キースからこぼれる声に、ぞくりと体が震える。今なら簡単に引き裂けそうな感覚に捕らわれて、苦々しく口を離すと、キースの濡れた唇が見えた。またぞくりと背中が震える。
「なんだ、これは」
魔王はそうこぼしながら、無意識にまたキースの口を吸った。
魔法力を吸えている感覚はない。指先を撫でた時ですらそれを感じられたというのに、今はそれを感じることができない。
咥内に舌を滑らせキースの舌をとらえると、酷く甘く熱い。
――なんだこれは。
魔法力を吸うにはその流れを繊細に追わねばならぬというのに、それよりもキースのくぐもった声や舌の甘さにばかり気が向いてしまう。
「ぅ、ん、ま、ぉぅ」
僅かに口の離れた瞬間にキースが弱々しく魔王を呼んだ時には、体を駆け抜ける熱に呻いた。
これは、情欲だ。
――キースに、だと?
人間の女を試しに抱いた時は、すぐに壊れてつまらないと思った。それからは人間を抱こうなどとは思わなかったし、魔王の欲を煽るのはやはり魔族だけだった。それも人間界を手に入れる日々の中ではどうでもいいことの一つだった。
それを、今、確かにキースに感じたのだ。
「何だ、これは」
口を吸っただけだ。キースは口に何か欲を煽る薬でも仕込んでいるのか。
「貴様、説明しろ」
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