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魔法使い襲来

 魔法の氷で手を強化したとはいえ、魔王の力を全ては防ぎきれず、刺された手から血が噴いた。舌を打った魔王がその手を掴み、マリーに見せる。 「治せ」 「――キースの手は、いずれお前を殺す手だぞ」 「かまわん。治せ」  マリーが黙ったままでキースの傷を癒し、魔王は剣を引いた。  しばらく風の音が聞こえる程に静まり返り、時が流れる。  沈黙を破ったのは、マリーだった。 「お前達は、何なんだ」  キースも魔王も、その答えを持っていない。黙り込んでいると、マリーの深い溜息が響く。 「分かった。キースの我儘は初めてだからな、母代わりとしては聞いてやりたいのも確かだ。見ててやるから共にあってみればいい。ここには私が結界を張る。見張りの弟子を一人よこすから、キース、お前が師匠代理として責任を果たせ」  ドレスの裾を翻しながらマリーが移動魔法を唱える。 「必ず破綻する。それは本物の魔王だからだ。キース、いつでも音をあげるがいい」  そのままマリーは姿を消した。  風の走る音だけがする。  これでよかったのか、悪かったのか、キースには何も分からない。振り返ると魔王が静かにキースを見つめている。キースの想いを聞いた魔王が何を思ったのかなど、分からない。 「……本物だったんですね」 「何故、偽物だと思ったのかは知らんが、俺は魔王だ」  脇をすり抜けようとした時、腕を掴まれ抱きすくめられた。冷たい肌のはずなのに、熱い。 「何ですか」 「さあな」  本当に魔王にもこの行為の意味が分からないのだろう。  ――愛してなど、いない。  ゆっくりと心の中で繰り返して、キースはそっと魔王の背中に手をまわした。

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