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師匠代理
「ではワグ、まずは島を見て来てください。これからしばらく君が過ごす場所です」
「分かりました!」
荷物を置いて、ワグはすぐに駆けだした。姿が見えなくなった頃、魔王が出てくる。
「何だアレは」
「マリーが言っていた弟子ですよ」
「なんとかしろ」
「無理ですって。私だってマリーには逆らえないんです」
魔王が顔をしかめて舌を打った。昨日あんなことがあったのに、魔王は平常通りだ。思わずこぼしてしまったキースの告白をどう思っているのかと気にした自分が滑稽に思える。魔王にとっては、どうでもいいことなのだろう。そんなことで胸を痛めていること自体、どうかしているのだ。
気を取り直して、キースは口を開く。
「あの子は昔ちょっと知り合った子なんです。魔王に潰された村の孤児で。そんな子は沢山いましたから、そのリーダーがワグでした。でも、その子達も皆死んでしまって、彼は自分の力なさに自暴自棄になっていて。そんな時に知り合ったんです」
放っておくと死んでしまいそうだったから、道案内という形で雇って、しばらく旅路を共にしたのだ。知り合いに預けてから別れる時、魔王を倒したら剣術を教えに来ると約束をしていた。
こんな形で会うとは思わなかった。
「それで何だ、俺は知らん」
「ああ、それで、あの子の前で貴方を魔王と呼びたくないんです。マリーはあの子に貴方のことをただの魔族として話しているようなので」
「俺は構わん」
「私が構うんです」
魔王はふんと鼻を鳴らして腕を組む。
「アレに魔法使いの息がかかってなければくびり殺してやる所だが」
「くびり殺……貴方でも彼女が怖いんですか」
少し面白く思ったが、鋭く睨まれ、それから思いもしない言葉が聞こえる。
「魔法使いは貴様の腕を治しただろう。借りがある」
そんなことを気にしているのかと面白くもあるが、それよりも意外で驚く。知らず、頬が緩んだ。そんな風に気にしてくれているなど嘘のようだ。
「キース、魔法使いは男だろうが。あの酔狂な格好は何だ?」
「よく分かりましたね。けど――それ、絶対マリーに言わないでくださいね」
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