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師匠代理
見つめると自然に視線が絡む。魔王の手が顎にかかり、慌てて振り払った。
「と、とにかく、だから名前、教えて貰えませんか」
「魔族は同等とみなした時か従属時にしか名を言わん」
「そうなんですか、だったら無理ですね」
魔王が名を名乗らないのはそんな理由なのかと改めて知る。だとすればキースはこの先も魔王の名を知ることはないだろう。
「では私が勝手につけましょうか、貴方の名前」
とはいえ、なかなか思いつかない。頭をひねっているキースに、魔王がぼそりと呟いた。
「オーガ」
「はい?」
「魔王になる前名乗った偽名だ」
「では、そう呼びますね、オーガ」
「――嫌な時を思いだす。アレの前以外では呼ぶな」
そんな嫌な名をキースの為に呼ばせてくれるのかと思うと申し訳ない。
――私の為に。
マリーに逆らわないのはキースの腕を治したからだとか、嫌な名を呼ばせてくれるとか、一体魔王はどうしたのだろうと思うのに、勝手に笑みがこぼれてしかたがない。無自覚なのかと思うと、可愛い気さえしてくる。
――この魔王を。私は。
そっと見つめるとまた視線が絡み、抗う間もなく顎を掴まれた。そっと目を閉じると口を吸われる。もう抵抗感一つないことから目をそらすことはできない。
「っふ」
深く貪られ思わず魔王の腕にすがりつく。立っているのも苦しいほど膝ががくがくと震えた。こんな快楽は知らない。唇を解放した魔王の息が乱れているのを見るのも、快楽だった。
けれど、こんな顔を他の誰に見せる訳にはいかない。
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