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三人暮らし
そのうち木材加工が終わったのか、ワグが金槌と釘を取り出す。魔王はそれも興味深そうに見ている。
「それで木をつなぐのか」
「小さいものならこれでいい。あんたの棚もこれで作れる」
「使えるな」
褒めた。
魔王がワグを褒めた。言葉を失うキースをちらと見た魔王がとどめをさす。
「キースは使えん」
「あ、貴方ねえ、私だってできますよ!」
「てめえ、魔族のくせにキース様を侮辱すんな」
「本当のことだ」
「ちょっとのこぎり貸して貰えます?」
「キース様はそんな事しなくていいんです」
断られた。使える所を見せたかったのに、と憮然とすると、魔王が微かに笑った。
――笑った。
確かに笑ったのだ。時々する邪悪な笑みでなく、呆れの笑みでなく、自然に笑ったのは初めてではないだろうか。
ワグの存在は魔王とキースにとって危険なものだと思っていたが、もしかしたら良い作用もあるのだろうか。そうなら、嬉しい。
結局、ベッド作りはワグと魔王が全部やってしまい、キースは傍観者のままで終わった。ついでだからと魔王の棚も作ってやるあたり、本当にワグは可愛いと思う。
出来栄えに魔王は満足そうだった。
「いい寝床ができた」
「ワグのですよ」
「俺のと替えてやる」
「これはキース様の分です」
「いえ、ワグのですよ」
「俺が貰う」
まるで冗談のように何も進まないので、今回はキースが受け取って明日にまたワグの分を作ることになった。この調子では魔王の分を作るまでうるさいのだろうと予想はできたが。
でも、こんな三人暮らしも悪くないんじゃないかと、キースは思った。
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