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ワグの事情

*  昨日、オレは魔族のオーガに切りかかった。  この島にきて一カ月目、マリー様に言われていたのは「隙があれば魔族を殺せ」ということだ。実際来てみれば、魔族はおそろしいし怖いし、オレは剣が上達しないし、暗殺なんて高度なことは難しすぎた。キース様にはそんな黒いオレを知られたくなかったし、そもそもキース様はオレについていてくれたから、魔族と二人になる機会も少なかった。  昨日はキース様が海にいくというのでオレは腹が痛いからと洞窟に残った。魔族はオレが教えた方法で棚を作っていた。一度教えただけなのに、器用に作っていくのは驚いた。  変なヤツだと思う。魔族って、もっと別世界のとんでもないおそろしい異形だと思っていたのに、オーガの野郎は肌が青いことと耳がとがっていることくらいしか変わった所がないんだ。  料理はマメだし食器棚欲しいとか細かいし、そういう所はキース様の方が無頓着だ。一緒にいると段々分かってきたんだけど、キース様は色々なことに執着がないんだと思う。だから城からも出たんだろう。  魔王が倒れて平和になったって聞いて、オレはキース様を探した。やっとキース様がいるっていう城にいった時には、キース様は城を出たあとで、もう死んだという噂も聞いた。どうしても信じられなくて、キース様の仲間だった人達を訪ねたけど、誰もキース様の消息を知らなかった。  やっとマリー様にたどりついた時は嬉しかったな。マリー様は「キースは死んでいない」ってはっきり言ってくれたし、いずれ会わせてやるって約束もくれた。その約束もこうやって果たされている。  魔王を倒して世界を救った英雄なのに、なんでこんな島で魔族と暮らしているのか、心底分からなかったし、今でも分からない。分かるのは、キース様はこれを望んでいるということくらいだ。  変な人だなと思う。こんなに不自由な生活なのに、なんでかキース様は楽しそうだし、魔族と話をしながら嬉しそうにしていたりもする。この魔族を隔離するという目的でこの島にいるのに、魔族を迷惑と思ってないみたいで、まるで普通の人間を相手にするみたいにふるまう。  それがキース様の優しさなのかと思うと、益々偉大で尊敬するんだけど、オレは時々分からなくなる。  ――魔族って、本当に悪いヤツだったのか?

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