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ワグの事情

 魔王のせいでオレの村もなくなったし、仲間も死んだ。許せないと思ったし、殺してやるって何度も思った。魔族なんて全部悪いヤツだと思った。  けど、オーガみたいなのもいるって知ったら、分からなくなる。キース様が殺していないってことは、殺さなくてもいいようなヤツだってことだ。だから益々分からなくなる。それをキース様に相談してみたいけど、なんとなく怖かった。  だから、その疑問が深くなり過ぎる前にもう、殺してしまおうと思ったんだ。  棚作りに集中しているオーガの側にそっと寄って、剣を振り上げてその背中に突き立てた。  つもりだった。  オーガはオレが剣を振り下ろすのに合わせて振り向くと、オレの手首を掴んでそれを止めた。握りつぶされるんじゃないかと思うくらいの力で、やっぱりこれは魔族なのだと思い出す。 「この程度で俺を殺せると思っているのか」  オーガは笑っていた。オレなんか相手にならないって分かっていたけど、笑われると悔しい。もう一度剣を振り上げたら今度は手を弾かれて、剣は洞窟の壁にぶつかり金属音をたてて地に落ちる。  その時、狙っていたように、キース様が戻ってきた。 「キース、これが俺を狙ってきたぞ」  黙っててくれたらいいのにと一瞬でも思ったオレの想いが霧散していく。  まあ、どっちにしろ、いつかキース様にはバレてただろう。  腹をくくるしかない。オレはぎゅと手を握り締めて、キース様に頭を下げた。 「すみません」 「あー、いや、大丈夫ですか? 酷いことされてません?」 「え、いやオレがオーガに切りかかって」 「ええ、まあ、オーガの命を狙っているんだから仕方ないでしょう。君は大丈夫ですか?」  キース様がオレの手を取って、眺める。 「怪我はないようですね。しかし、まだ君には早いですよ。暗殺というのは一番難しい殺し方です」 「殺気がまるで消せていない暗殺などあるか」 「ワグはまだ修行中なんです」  キース様とオーガが交わす会話をぼんやり聞いていたオレだったが、すぐに我に返った。 「待ってください、え、オレのこと、知っていたんですか」  オレがキース様が殺さずに監視している魔族を殺そうとしていることを。キース様を裏切っていることを。

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