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ワグの事情
そういえばこの間もそんなことを言っていた。暗いのが嫌だとかなんとか。魔族って暗い所とか好きそうなのにっていうのは、オレの偏見だったんだな。
「まあ、洞窟は嫌だなオレも。家がなかった時でも、よそん家の小屋に忍び込んだりしてたし」
村がなくなってからは近くの街でごみを漁ったり強盗をして生きてきた。家はなかったから、廃墟を見つけて忍び込んで暮らした。でも洞窟は、さすがにない。
「あんた、洞窟で暮らしてたとか?」
オーガはオレをちらと見ただけで何も言わない。質問に黙っているのは肯定らしいから、これは正解なんだろう。それも、あまりいい思い出じゃないやつ。
「ちょっと分かるかも。オレも家がない時、絶対にいい家に住んでやるっていつも思ってたし。あんたもそんな感じ?」
「……魔界では力が無ければ這いあがれない。それまでは洞窟住まいだった」
「這いあがったんだ? って人間界に来たってことか。すげえ迷惑だ」
そのせいでオレは家をなくしたんだ。一瞬、オレ達は似てるかもとか思ったけど気のせいだわ。だってこいつは魔族だ。世界が違う。
でも、家は作ってやってもいいという気持ちにはなった。
「じゃ、キース様が戻ってくるまでに、もうちょっと進めるか」
腰をあげようとした時、オーガに手を掴まれる。凄い力で引き寄せられてオーガの足の上に転んでしまった。
「何だよ!」
睨んだオレを、オーガがじっと見つめて目を細めた。
「キサマにも魔法力はあるのか」
なんか。顔が近い気がするんだけど。銀の目が怖い。よく見たら、顔が整ってる美形なんだなと今更思う。いや、顔、近くない?
そう思った瞬間に、口を塞がれた。オーガの口で。
え、ええ、え。
なんだ、これは。
ぽかんと開いていた口をオーガが乱暴に吸うから痛かった。空気を吸い取られていると気付いて、苦しさにもがいたら、オーガはすぐにオレを放して首を傾げた。
「本当に魔法力があるのか?」
いや、なんか、他に言うこと、あるだろう。
「まるで違う……なんなんだ、あれは」
多分独り言を呟くオーガはオレのことなんて気にも止めないで立ち上がり、舌を打っている。
いや、オレ、さっきキスされたんじゃないのか?
魔族に?
「ちょっと待て、あんた」
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