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ワグの事情
文句を言いかけてオレは言葉を飲む。いつの間に帰ってきていたのか、作りかけの小屋の外に、キース様が立ち尽くしていた。いつもと同じように穏やかに笑っているけど、なんか、こう、気配が、怖い。
「オーガ。貴方、何やっているんですか」
声だって穏やかだし、いつも通りだけど。オーガは気付かないのか、普通に会話なんてしてる。
「これには本当に魔法力があるのか?」
「マリーのところで修行しているんですから、並の魔法使いよりは高いですよ」
「そうは思えん。貴様と違いすぎる」
「――知りませんよ、そんなこと」
吐き捨てるように呟いたキース様は、そのまま背を向けてどこかへいってしまった。空気が凍りついたように、痛い。オーガの言う殺気ってやつはこれかもしれないと思う。
キース様は、怒っていた。初めて見た。怒った所。なのに、怒らせた魔族は追いかける様子もない。オレを見下ろして、眉を顰めている。
「あの。キース様怒ってるけど」
「何故だ」
「そりゃ、その、あんたがオレにちょっかい出したからじゃないか?」
一応、オレってキース様の仮弟子だし。
でも、こいつは何のつもりだったんだろう。オレのこと好きなのか?
「そんな訳、ねえよな。なあ、さっきの何だよ」
「さっきの? ああ、魔法力を吸い取ってやろうと思っただけだ」
それが魔族にとってのキスなのか。超、タチが悪い!
……魔法力? 魔族って魔力を使うんじゃないのか?
混乱が酷くて、オレはもう考えるのをやめた。とにかくこの魔族にはひとこと言っておかないと駄目だ。
「魔族はいいかもしれないけど、オレ達にとっては、こう、その、好きなヤツとするもんだから、あんた二度とあんなことすんなよな」
「口を吸うことか。――ああ、そんなことを言っていたな」
知ってるんじゃねえか。余計タチが悪い。とにかくキース様の誤解は解いておきたい。
今日は大工仕事を終わらせて、オレ達はキース様を追った。
洞窟前の畑で収穫をしていたキース様はオレを見ていつも通り笑ってくれたから、ほっとする。
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