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ワグの事情

「お疲れ様です。今日はもうおしまいですか?」 「あ、はい。あのキース様、さっきのはあいつが無理矢理――」 「分かってますよ。困った魔族です。嫌な思いをしたでしょう、すみません。よく言っておきます」 「キース様が謝ることないです、ほら、あんたもなんとか言えよ」  オーガは眉を顰めてキース様を見ていたけど、キース様は全然オーガを見なかった。あれ、これって、凄い怒ってるんじゃないだろうか。  その予感は当たっていたと思う。  その後、キース様は全くオーガを見なかったし、いつもは空気を和らげる為に沢山喋ってくれるのに、全然喋らなかったからだ。静まり返る洞窟の中はやけに暗く感じた。  次の日もキース様の機嫌は直らなかった。オレには普通だけど、オーガのことは完璧に無視。オーガもそれを気にしていないみたいだから、俺だけがその空気を怖がっている。すげえ、辛い。  我慢できなくなって、オーガにこっそり耳打ちをする。 「あんた、なんとかしろよ、この空気」 「知らん」 「あんたのせいでキース様が怒ってるんだよ、謝れ」 「俺がキースに何を謝るのだ」 「だから、オレから魔法力盗もうとしたことだろ」 「それが気にいらんのか?」  今気付いたのかよ、となんだか脱力だ。やっぱり魔族は魔族なんだ。繊細な人間の心が分かる訳がない。  キース様が川へいくと出ていったのを絶好の機会とばかりにオレはオーガの背中を押した。 「早くいけよ。ちゃんと謝れ」  オーガは心底面倒そうな顔をしていたけど、それでも重い腰をあげて出ていった。はあ、と息をついてオレは大きく伸びをする。何でオレばっかこんなに気をつかっているんだろう。  不公平じゃねえか?

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