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嫉妬は闇落ちのしらべ
◇
目の前が赤く染まった。
魔王と戦う時はいつも怒りを抱いていたつもりだった。魔王の奪ったものを背負ってキースはいつも彼に対峙していた。それは重々しくもキースに勇気と前進する力をくれたからだ。重さが増せば増す程にキースは力を得てきた。だから怒りとはキースにとって戦う力そのものだった。
けれど、これは違うと言い切れる。
おごそかな祈りにも似た、哀しみを背負った怒りとはまるで違う。ただひたすらに自らの都合とだけ照らし合わされた、本能のような、けれど確かな怒りは、何も知らない魔王と被害者であるワグにまで向けられたのだ。
魔王がワグに口付けていたのだ。
頭では分かっている、魔王はワグの魔法力を吸ってみたのだろう。ワグは心底困惑しているといった風体だ。ここには、それ以外の感情などない。
けれど。それでも、キースは湧き上がってくる怒りを抑えることができなくなった。
慌てて二人の前から姿を消したが、何度も思い出されるその光景に、拳を握りしめたくなる。
――魔法力が吸い取れれば、誰でもいいのか。
そうだろう、魔王にとってはそんなものなのだと分かっているではないか。あの口付けに意味などなく、キースはただ搾取されていただけだ。
――ワグも避ければいいものを。
自分ですらできないことを、未熟な弟子に求めることもおかしな話だし、ワグは被害者なのだ、今キースが心を配らねばならないのは、魔法力を吸われたワグの体のことなのに、一体己は何をしているのかと思う。
そんなキースを気遣ってくるワグには申し訳ないと心底思ったし、可愛い預かり物の弟子をもっと大切にしなければと思う。キースの様子を伺ってくれる可愛いワグへの怒りなど、四散した。
けれど、魔王の顔を見てしまうと腹の底が煮えた。口を開けば余計な罵倒をしてしまいそうで、なるだけ言葉を控えたが、そのせいでワグが気を遣っているのが分かる。申し訳ないとは思うが、自分でも制御しきれない感情に一番参っているのはキース自身なのだ。
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