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嫉妬は闇落ちのしらべ
けれど、キースはいつも孤独だった。
力があるのだから、魔王討伐に起った。少しずつ仲間ができて、少しずつ魔王の軍隊を鎮圧して、少しずつ人々の期待を受けた。気付けば世界中を周り、その希望を一身に背負っていた。それは誇らしく栄誉ですらあった。
キースをたたえる人々の目が「キース」を見ていなくても、それでいいと思っていた。「勇者」の肩書を背負った時点で、キースは「キース」ではなく「勇者」になったのだ。それくらいの覚悟はあった。
それを、魔王は覆した。
魔王は真っ直ぐにキースを見ていた。
人々を守る正義と勇気のまなざしの中に、戦闘を楽しみ力を示したいという欲を持ったキースに、魔王だけが気付いた。命をかけ拳を合わせたものにだけ分かる、それはそういう類いのものかもしれなかった。
魔王の前にある時にだけ、キースは本来の自分でいられるのだ。
噛んだ首を吸う魔王の力が強い。痛みとは別の感覚で痺れながら、キースは何度も首を横に振る。
「駄目だ、離せ、これ以上は」
自分では制御できない感情と体。この正体に気付いてはならない。魔王にだけ煽られる欲の源を覗いてはならない。そう思うのに。魔王が呻くように、呟く。
「貴様でなければ、こうはならん。アレにはもう触れん」
背骨が折れるのではないかと思う程に強く抱きしめられ、キースも小さく呻いた。
どうしようもない。
魔王の言葉が、どうしようもない程、嬉しいのだ。
ただの唯一として、求められた。
満たされる、満たされていく。
「キース、足りん」
唸るようにそう呟いた魔王がキースの上服を剥いだ。風に晒された肌が粟立って、鎖骨を噛まれると喉で跳ねた。
「貴様の肌は悪くない」
魔王の舌が鎖骨から胸筋を這う。ざらりとした感触と吸いつかれる痛みに、腰が浮きそうになる。
「あっ」
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