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嫉妬は闇落ちのしらべ

 知らずこぼれた声が誰のものかと耳を疑う程に甘ったるく、キースは目を閉じた。  こんな屈辱を、他の誰に許すというのか。  ――この男でなければ、誰が。   もう誤魔化せない。そう、ずっと誤魔化してきた。この感情を表す言葉をキースは知っている。こうも激しく感じたことが初めてだから、今まで分からなかっただけだ。  ――私は、ワグに嫉妬したのだ。  魔王に口付けをされているワグに。自分には触れてこなくなった魔王がワグに触れたことが、どうしても許せなかったのだ。  これを認めてしまうと、答えは一つだけだ。  同時にキースは今までの人生を全否定することになる。守ろうとしたもの全てを冒涜する。愛している人間を裏切る。    ――私は、魔王を愛している。  それは重く暗い絶望だった。  魔王の指が頬に触れ、自分が泣いていることに気付いた。泣くなんて、両親を失った時以来だった。 「キース……」  キースを抱きとめていた魔王の力が緩む。その呼び声も弱く困惑しているように思えた。魔王の前でここまでの弱さを見せたのは、初めてで、それも堪えた。  魔王の腕から逃れ、服を整える。 「少し、一人にさせてくれませんか」  キースには時間が必要だった。  許されない罪を背負いながら生きていく覚悟を決める時間が。

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