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魔王の事情 4

◆  魔王は自らの人差し指を見つめていた。  とがった爪に薄青い肌、見慣れたそれに別段思い入れなどがある訳ではない。この指で触れた、キースの頬を思い出しているのだ。  白く柔らかい肌に這う温かな雫をこの指で拭ったのは、無意識だった。キースが泣いていると気付いた時には、この指がその涙を拭っていた。何故なのか分からず、魔王は苛立っている。  泣くという行為は、絶望を感じた時に起こるものだろう。  あの時魔王は久しぶりにキースに触れた。キースがそうしろというからそうしてやっていたのだが、あの時は耐えきれなかった。キースの弟子の前でなかったので、大丈夫だろうとも思った。  気まぐれに吸ってみた弟子の口が、ただの肉の味しかしないことが不思議だった。キースのそれとは違いすぎる。実は、口を吸う時は魔法力を吸っていない。そんな余裕がなくなるからだ。魔王がキースの口を吸うのは、その甘さが欲しくなるからだ。  その都度、キースが小さく震えたり甘く鳴いたりすることに欲情しているのはもう認めた。殺気を含んでいない目が何か言いたそうに魔王を見つめてくるその何ともいえない感覚にぞくぞくと体が震えるのは欲情でなくて何なのだと思う。  ――このままだと、抱いてしまうかもしれん。  あのキースがそれをやすやすと受けるはずがない。無理にそうすれば魔王は殺されるだろう。  キースには黙っているが、魔法らしいものを一つ、魔王は使えるようになっていた。  小さな火種を呼びだすだけの、キースに聞けば子供が覚えるような魔法だという。一度やり方を見せて貰って、呪文を覚えた。精霊と契約する程の力ある魔法ではないので、呪文を唱えれば、魔法力があり、才能のあるものなら使えるのだとキースは言った。  まさか、魔王がそれを試すなど思いもしていないのだろう。  キースから与えられる魔法力は魔王がその体を保っていられる分量ぎりぎりだ。そこに魔王は少しずつ、キースから吸い取った分を蓄積してきた。指先に触れるのが今の所一番効率がいい。  魔法力を取り込み始めると、本来の力が蘇ってきているのも朗報だ。魔力を血液のように体中に巡らせていた代わりに、今は微かながら魔法力をいき渡らせることができるようになっている。 キースの弟子からは精霊との契約方法を聞き出し、簡単な冷気を魔法として呼び出せないか試してもいる。

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