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魔王の事情 4

 この魔王が、キースに謝るはずがない。泣かせたのは自分だろうがそれを悪かったと詫びるというのか。  ――この俺が。 「それはない」 「けど、あんたが泣かせたんだろ!」 「知らん」  顔を背けて座り込むとサボるなと言われる。  小屋作りには使える男だが、使えなかったら殺している所だと思う。暗殺術を教えるように言われているから、少しずつ教えているが、なかなか腕も上がらない。キースとは比べるべくもないような人間だ。魔法を使えるようになったら、真っ先に殺してやろうと思っている。  ――違う、俺はキースを殺す。  そのつもりで、耐えがたい道化のような暮らしすら受け入れているのではないか。いつの間に、その決意が緩んだのか。それは魔王を酷く狼狽させた。 「あ、キース様!」  弟子が遠くからやってくるキースを見つけて手を振っている。それにつられて振り向くと、キースも手をあげて応えている。いつもと変わらない、ゆるい笑い顔だ。これを元気がないと断定できる理由を、やはり教えてほしいものだと思う。 「お疲れ様です」  キースは笑いながら果実を差し出してきた。 「一休みしませんか」 「あー、オレはもうちょっと仕上げてからにするっす」 「オーガは休みませんか」  キースの目が魔王に向けられる。やはりいつもと変わらないように魔王には思えた。 「あーでも、蜜柑は食いてえなあ」  弟子がキースの手元を見て笑い、キースも笑いながらその蜜柑を弟子の口元に差し出す。 「このまま食べられますよ」 「え、いや、そんなキース様の手からなんてそんな」 「はい、どうぞ」  キースが無理矢理に蜜柑を弟子の口に押し込み。弟子は嬉しそうに頬を染めながらそれを口にした。キースの指が弟子の口に少しだけ触れる。  途端に、苛立った。  キースの手を掴んで弟子から引き剥がすと、そのまま口に含む。蜜柑の酸味と同時に、柔らかな甘みが広がり、魔王はそのままキースの指に舌を絡ませた。 「な、何してるんです!」  キースは顔色を変えて魔王を蹴り飛ばした。油断していた魔王は作りかけの小屋の床に転がってしまう。酷い屈辱に眉を顰めてキースを見上げると、目を見開いて怒りに唇が震えている。さすがにこれは分かった。

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