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魔王の事情 4
「怒ったのか」
「貴方が妙なことするからです!」
「ソレには怒らなかった」
「は? ワグは私の手を食べなかったでしょう」
「き、キース様」
弟子が怒りに震えるキースの肩を支えていることも、気にいらない。身を起こした魔王はその腕を払いのけ、また怒鳴られた。
「何ですか、貴方はもう! ワグに謝ってくださいね」
「キース様、オレは大丈夫なんで」
払いのけてやったのに、弟子の手が今度はキースの腕を掴んでいる。袖をまくりあげた上服から覗く素肌の腕を直接掴んでいる。滑らかで肌触りのいい、魔王が好むキースの肌に、弟子は何ら文句も言われずに触れている。
むしょうに腹立たしい。
魔王が少し触れても怒るのに、弟子だと大丈夫なのか。
知らず、声になった。
「キース、貴様は俺とソレを同格に扱うのか」
キースが首を傾げ、弟子が息を飲んだ。なんだと思う間もなく、弟子がぽつり呟く。
「なんかヤキモチみたいっすね」
こうるさい犬だ。
――嫉妬だと? この、俺が。
魔族のなれの果てである下等生物に、魔王である存在が嫉妬など許されない。
「邪魔だ」
よくよく思えば、この弟子が来てからキースはおかしくなった。これさえいなくなれば、何の問題もなくなって順調に魔法力を集めることができるようになるのではないか。それはいたく単純な答えだった。魔法使いへの借りなど、とうに果たした位の時間はたったはずだ。
「もう、殺す」
本来の力などなくとも、キース以外の人間ならば容易く殺す自信はある。魔王は作業用ののこぎりを掴むと目を見開いている弟子に向かって振り上げた。
「何をしてるんですか!」
キースが素早く剣を抜き、魔王の一撃を受け止める。火花が散り、その衝撃で弟子は土に転がった。一息で殺せる存在なのに、そこまでが遠い。
「ワグに手を出させる訳がないでしょう」
「ソレは元々俺を殺しにきたのだろう。殺されるのを待ってやる義理もない」
「この私が、させるとでも」
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