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魔王の事情 4
のこぎりごと押し返される力が強くなる。やはりまだ、キースに打ち勝つ力はない。微塵の弱さも見せないキースの黒い瞳で睨まれると自らの力なさに苛立って仕方がなくなる。それと同時に、涙を流す程の弱さを抱えた瞳も、見たくなる。
――どうなっている。
少なくとも、今、弟子を殺すのは無理そうだった。
舌を打ちながらのこぎりを投げ捨てると、キースも剣をおさめた。その足元で弟子が目を輝かせてキースを見ている。キースはこの犬に優しい言葉でもかけるのだろう。
苛立ちが頂点に達した魔王は黙って踵を返した。こんな所にいつまでもいては、また弟子に切りかかってしまう。そうすれば今度こそ、キースに斬り伏せられるかもしれない。
後ろからキースの呼び声がしたが、振り返ることもせずに魔王はその場をあとにした。
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