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魔王の事情 4

 苛立ちを抱えたままで森に入ると、その苛立ちのままに咆哮する。  音の衝撃で木々がざわめくのを見ていると少しは落ち着いた。腕をふるって何本か木を切り倒し蹴りあげ、魔界の炎を呼ぶ。何もかもを消してしまいた程の苛立ちだった。もちろん、魔界の炎は呼べず蹴りあげた木はそのまま地面に叩きつけられたが。  魔王は自嘲する。  魔力も使えず、人間の発見した魔法などに頼ってまで生きながらえて、それで満足なのか、と。  人間界が欲しい気持ちは変わりないが、こんな意味の分からない苛立ちまで抱えて、それでも人間界にこだわる意味があるのか、と。  最初は自分をこんな目に合わせたキースを殺してやればそれでよかった。しかし、キースと過ごすうちに、やっぱり人間界が欲しいと思うようになった。  ――それで今はどうだ?  分からない。もう何もかもが、分からない。  魔王はしばらく、そのままで立ち尽くしていた。

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