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魔王の事情 4

 どれくらいそうしていたのか、気付けば辺りは薄暗くなっていた。洞窟に戻る気にもならず、けれどこんな所で寝る気にもならない。それもこれも、全てキースのせいだと思うと、また苛立ってくる。洞窟に戻ったら、二人を洞窟から追い出して寝てやると思いつつ、まだ帰る気にもならないので、落ち葉に種火の魔法で火をつけ、焚き火をする。  月がでている地上の夜は、魔界よりも随分明るい。闇そのものの深さが違う。それでも随分人間界の明るさに慣れた目が、光を求めているのだろう。  薪に使った枯れ枝が火に炙られて弾ける音も、嫌いではなかった。  背中で、枝が折れる音がする。気配に目を細めて、魔王は呟いた。 「キースか」  薄暗い森の中から、青白い顔をしたキースが姿を見せた。しばらく見合ったまま、時間だけが過ぎる。  先に沈黙を破ったのは、キースだった。  焚き火の前で腕を組む魔王に寄って立ちながら、ぼんやりと口を開いた。 「いつの間に、火を起こせるようになったんですか」 「子供でもできるのだろう?」 「……ああ、あの魔法を使ったんですか、凄いな、魔法力を使える魔族なんて聞いたこともないのに」  黙っていたことを怒っているのかと思ったが、キースの表情は穏やかで、そんな風にも見えない。ただぼんやりと火を見つめている。 「何か用事か」 「ああ、ワグに叱られたので」 「貴様が」 「そう。私って貴方に冷たいんですって」 「アレは馬鹿なのか」 「優しいんですよ。貴方にさえも優しい。あの子のような人を優しいというんです」  枝の爆ぜる音がする。風が吹くとキースが身を震わせたから、引き寄せると、突き放された。  分からない、とつくづく思う。 「まだ、覚悟が足らないんです」  キースの絞り出すような声が震えている。泣いているのかと顔を掴んで見たが、涙は流れていなくて、ほっとした。泣かれると、どうも調子が狂う。

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