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魔王の事情 4
キースは顔を掴まれたままで、まっすぐ魔王を見つめた。
「さっき、何故急にワグを殺そうとしたんですか」
「アレが俺を殺そうとしているからだと言っただろう」
「でも、今までは相手にしていなかったじゃないですか。何故、急に」
「邪魔だったからだ」
これまでも、鬱陶しいと思うことはあったが、さっきは急激に邪魔だと思ったのだ。それ以外に理由などない。それを言うのも面倒で魔王は黙り込む。けれどそれを許さないかのように、キースの目が魔王を見つめてくる。
大きな黒い目の奥に、誰にも見せないような激情の炎がある。人間の中では随分幼い顔立ちなのだろうに、そんなことを忘れさせるほどの激しい熱を向けられ、見惚れる理由は、美しいからだ。いつまでも見ていたい気にさせる。
この瞳をくりぬいて宝石のように扱ったとしても、それは二度と同じ美しさを見せないことも、もう分かっていた。この瞳が美しいのは、キースの一部だからだ。
「魔王、そんな風に見つめられたら、私は、望んでしまう」
キースの頬が震える。掴んでいた手を放すとキースは唇を噛んで、顔を背けた。黒髪の襟足から覗くうなじの白さが今日はやけに映える。思わずそこに噛みつくと、キースは弾かれるように震えて、鳴いた。
「あっ」
それだけで煽られる。舌を這わすと声をあげることはもう知っている。魔王はキースの首筋をざらりと舐めあげた。
「い、っ、やめ、ろ」
舌で味わってもキースの肌はいい。噛みついて歯が柔らかい肉に沈んでいく感触も、極上の果実を食んでいるようで、いい。それでいて声も甘い。
もう認めるしかない。キースは特別なのだ。
他の誰にも代わりはない。
自らを滅ぼした憎い存在であるから尚、そう思うのかもしれない。
「ま、おう、よせ、これ以上は」
「貴様が本気で殺しにくるまでは――もう止めん」
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