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魔王の事情 4
だから、他の誰にだろうと触れさせるつもりはない。
「貴様を、抱くぞ」
このキースを他の誰がそんな風に扱えるというのか。
不意に、キースが魔法使いに向かって叫んでいた言葉を思い出す。
『この世界で私の全てを受け止めたのは魔王しかいない』
――そうだ、俺しかいない。
だからキースは魔王を殺さない。
やけにはっきりとした確信だった。
「――嬉しそう、ですね」
息を乱したキースが魔王を見つめた。その首を爪で掻き赤く浮いた線に舌を這わす。キースは声を噛みながら唇を噛んでいる。
「嬉しい? まあ、そうかもしれんな。貴様のそんな顔を見るのは、悪くない」
「私は、男です」
「知っている。人間の女はすぐに壊れたが、貴様なら大丈夫だろう?」
「私も人間ですよ」
弱々しかったキースの目に一瞬、殺意のような激情が灯って、魔王は尚更に煽られた。こんな目をするくせに、今すぐ殺せそうな顔もする。どちらもキースだが、このどちらの顔も見たことのある人間がどれほどいるだろうか。きっといないだろう。自分だけが知るキースの顔をもっと見たい。
「貴様が人間かどうかなど、どうでもいい」
キースは目を見開き、息を飲んだ。激情の灯っていた目がゆらり揺れて、こぼれ出す。これは苦手だ、と魔王は慌ててその雫を拭った。
「泣くな。どうすればいいか分からなくなる」
魔王の言葉に、キースは益々目を見開いて、雫はとめどなくこぼれた。
「貴方、それ、私には、ものすごい告白に聞こえますけど」
「知らん」
「もう、本当に、私は――」
驚きに開ききっていた目をすうと閉じて、キースはひそやかに微笑んだ。焚き火の炎に照らされた顔は、酷く美しいと魔王は思った。
そのまま半身を起こしたキースが、唇を重ねてくる。同じ熱量を返しながら、キースの腕が首に絡みついてることに気付き、熱が上がった。
欲しいという欲求は止めどがない。
「んっ、あ、魔お、ぅ」
舌を絡めたままで咥内から引きずり出し、赤いそれに指を咥えさせ爪を立てる。痛みに眉を顰めたキースは、それでも魔王を殺しにかかってはこない。
「んっ、痛」
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