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魔王の事情 4
どうしてその言葉がこんなにも心地よいのか。
人間全てを愛していると言うその口が、魔王だけには抱かれることを許すと言う。
そのことに、おそろしく満たされていく。
前魔王を打ち倒した時すら、ここまで満たされはしなかった。もっと何かが欲しくて人間界を欲した。
それすら凌駕するこの満足感は何なのだと思う。
魔力を失って、弱ったのか。
人間界にいすぎて、狂ったのか。
そうでなければ、こうもキースを――。
――俺は最早、これだけが欲しい。
この感情を何と呼ぶのか、恐ろしすぎて聞くこともできない。おそろしい。ただ、この満たされる安寧がおそろしかった。
すがりついてくるキースを引き剥がして、その顔を見下ろす。キースは濡れた目で魔王を見つめ、囁いた。
「一度だけ……最初で最後だから、言わせて」
濡れた目に強い光をたたえたままで、キースがそっと口を開く。
「貴方を、愛している」
その言葉の意味を魔王は知らない。愛など人間の妄言に過ぎない。けれど、キースの声が風のように体を駆けていく。魔王の中で小さな渦を起こしたそれは身体中を包んだ。
――これは、なんだ?
体を駆ける風の尾を掴めば、もっとキースを得られるのかもしれない。キースの顔を見つめて薄く開かれた口の隙間から、続く言葉を待つ。
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