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覚悟と実行
◇
キースは全くワグの気配に気付かなかった己を恥じる。完全に魔王に溺れて、警戒を怠った。
絶対に見られてはならない相手だったというのに。
乱れた着衣を整えて剣を握り締め、様子をうかがうと、魔王は何事もなかったような顔でワグを見ていた。
「何か用か」
「っ! あんた、キース様に、何、してたんだよ!」
いけないと思った時にはもう遅い。キースが飛び出すより早く、魔王が口を開く。
「抱いていた」
ワグの顔色が変わる。蒼白、という言葉はこの為にあるのではないかと思うほどに青ざめ、二人の前に飛び出たキースへと視線を向けてくる。
暗い瞳だった。
いつも明るく優しいワグのこんな顔を見たかった訳ではない。
キースは痛む胸を押さえて、ワグを見つめ返した。何を言えばよいのか分からない。どうすればここをおさめることができるのか、分からない。
ワグは暗い瞳のままで、キースに問う。
「キース様、この魔族のことを、魔王って、呼んでいませんでしたか」
すぐに否定すればよいものを、キースは思わず息を飲んでしまった。いつから見られていたのか、とそればかりが頭を舞い、締め付ける。
「何の、ことです」
「嘘ですよね、こいつが魔王で、それなのに、キース様に……あんなことを」
ワグにとって魔王は全てを奪った憎い敵だ。姿を見たことがなくても、ワグは魔王を憎んでいたし、それを知っていたから、魔王のことを偽名で呼んできた。
「嘘って、言ってくださいよ! なんでこんなことするんだよ! あんた勇者だろ!」
ワグの叫びがキースの胸を引き裂く。ワグは真っ当だった。おかしいのは自分だ、その自覚はある。だからこそ、覚悟を決めたのだ。
「――許さねえ、オレはあんたを殺す!」
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