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覚悟と実行
ワグが魔王に向けて冷気を放つ。さっきよりも強大なそれに巻き込まれれば、凍死するだろう。魔王はひらりとそれを避け、ワグに向かって笑った。
「俺を殺せるつもりか」
「殺す!」
ワグはすかさず次の冷気を呼びだして、魔王に向けた。マリーの所で修行しているだけあって、その強さは本物だ。けれど、放たれた冷気を魔王はまた避けるとワグに駆け寄り首を掴む。苦しげに唸ったワグが腰の剣を取ろうともがいたが、魔王はその剣を取り上げ、逆にワグに突き付けた。
「俺に剣を向けるなら、死ぬ覚悟でくるんだな」
「く、そっ」
「お前は邪魔だった、もう死ね」
魔王は剣を振りかざし、キースはその下に駆け込むとそれを受け止める。
「邪魔をするな、キース」
「するに決まっているでしょう。貴方こそ剣を引いたらどうです? 私に殺される前に」
魔王が苛立たしげに、掴んでいたワグを地面に投げつけた。
「ワグ!」
乱暴に叩きつけられたワグは頭を押さえて呻き、キースはその頭を抱えて薬草を飲ませる。即効性はないが、地面に打ち付けられた痛みを和らげることくらいはできるはずだ。
ワグは苦しげに首を押さえて、キースを見上げる。魔王に握られた拍子で、首に損傷があるかもしれない。ぞっとしながらキースは優しくワグの手を握った。
「キース、さま」
切れ切れの声に、罪悪感で死にそうになった。
「すまない」
ワグを抱え上げ、森の隅に寝かせると、そっと頭を撫でてやる。
「けじめはつけます。彼を、殺してくるので、少し待っていて下さい」
何か言いかけたワグの口を手で覆って黙らせ、キースは再び魔王の前に駆けた。魔王は不機嫌そうに眉を顰めて腕を組んでいる。
「俺を殺す、と聞こえたが」
「そうですよ。言ったでしょう。私は覚悟を決めたんです」
魔王を愛している。だから、この手で葬らなければならない。いつの間にか、魔法を使えるようになるなど、魔王は危険すぎる。マリーの言ったことは正しかったのだ。責任は取ると約束した。
キースが覚悟したのは、魔王を失うということだった。
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