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元魔王は愛がわからない

 風呂よりもキースに触れたかったが、キースは言いだしたら聞かないのでこのまま無視をすると面倒なことになりそうだ。それくらいはサラギにも分かってきた。  おとなしく水が張られた浴槽に石を投げ込むと、じゅうと音と蒸気をたてて水が湯に変わっていく。温泉というにはぬる過ぎるが、それでもキースは十分だと言った。 「貴方、先にどうそ。服は脱いでくださいね、洗うので」 「面倒だ」 「本当、こだわるとこおかしいんですよ」  ぶつぶつと文句を言いながら、キースはサラギの服を剥いでいく。そんなに洗濯が好きなのかと辟易するほど、キースはよく服を洗う。そのくせ相変わらず食には無頓着で、よくよく変わった人間だと思わずにはいられない。 「はい、どうぞ」  すっかり服を剥ぎ取られて、サラギは浴槽に身を付けた。ぬるいが悪くない。洗濯は面倒だが、風呂に入りたいというキースの提案は正しいと、サラギは機嫌よく思った。 「貴様は入らないのか」 「洗濯終わってからですって」  山のように積んだ洗濯がいつ終わるというのか。  サラギは浴槽から出ると、おもむろにキースの腕を掴んでそのまま浴槽に投げ込んだ。水しぶきを受け止めながら浴槽に戻ると、久しぶりに怒りのこもった目が待っていた。 「あ、な、た、ねえ!」 「冷める前に入れ」 「こんな乱暴なやり方しなくても」

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