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元魔王は愛がわからない

 そういえば前に風呂を作ったときも、こうやってキースを無理やり引きずりこんだのだと思い出すと、知らず笑みがこぼれた。あの時はこんな風になるとは思いもしなかったのだが。  文句を言い続けていたキースが不意に言葉を止め、サラギを見上げてくる。 「そういえば、前もこんなでしたよね、貴方まったく変わってない」  同じことを思っていたのかと、面白くなる。共に過ごすということは、こういう時間が増えるということなのだろう。それを悪くないと、サラギは思った。  キースの肩を掴んで引き寄せ、文句を言いそうな口を素早く塞ぐ。少し啄むだけでキースの口は簡単に割れた。 「んっ」  甘く熱い舌を絡め取って吸い上げると、キースの手がサラギの首に絡んでくる。自分だけのものにしたようで、サラギはその瞬間がたまらなく好きだった。  舌を吸ったままでキースの背を撫で、骨をなぞる。鋭い爪先で背を掻くとキースが跳ねあがるのも、サラギを煽った。そのまま爪先を腰まで下ろして更に抱き寄せると、吸っていた口に逃げられる。 「ぁっ、何、するんですか」 「あれから貴様を抱いていない」  一度だけ抱いたとき、キースの中に注いでやりたかったのに、それは弟子に邪魔された。そのあと魔法使いに殺されかけ寝込んだので、結局キースを抱いたのはあれだけだ。  足りないと感じるのは、それだった。  ――もっと、欲しい。  キースの目が暗いときは耐えてやったのだ。そろそろ奪ったところで文句は言わせない。そう思うのだが、 「こんな、昼から、嫌、ですよ」  キースは頑なだった。 「昼も夜もあるか、今抱きたいと言っている」 「私は嫌だと言っています」  揺るがない強い瞳がまっすぐに見つめてくると、サラギは引くしかない。力ずくで組み伏せるには、サラギの体力はまだ万全ではないのだ。本気のキースに抗われたらかなわない。  ――忌々しい。

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