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元魔王は愛がわからない・島は雨
◇
島には雨が降っている。サラギは鳥でも取りに外へ行きたかったが、雨に濡れるとキースが呆れた顔をするので今日は耐えておいた。こうなるとすることがない。キースは食卓で木の端切れを並べて何かしていた。正面に座ってそれを眺めると、不審気に眉を顰められた。
「何です?」
「何をしている」
「んー、設計ですかね。でも私には難しすぎます」
キースは木の端切れを弄ることを止めたのか、疲れたように伸びをした。
「設計? 貴様が何を作るつもりだ」
キースの作る物は大概が大味で、本人に言わせると「使えればそれでいい」なので、サラギの感覚からは大分ずれたものが出来上がる。どうせならサラギが作った方が良い物ができるとキースも分かっているのか、その目がちらりとサラギを捕らえた。
「何か動物を飼いたいと思って」
「家畜か悪くない。牛を飼え」
牛の乳はサラギの好む食材だ。これがあるだけで、随分と料理の幅が広がるのは驚きだったし、是非とも欲しい。
ただ、戦い以外ではあまり使えないキースに牛を飼うことができるのかは疑問だ。
「貴様は、牛を飼えるか?」
「牛は飼ったことないですね。貴方、魔界で牛飼いはしてなかったんですか?」
「するか。だいたい魔界に牛はいない」
「そうなんですか、残念。まあ、そもそも牛はこの島にいませんからね。鶏はどうです?」
鶏、それも悪くないとサラギは思う。卵は重宝するし、肉も食材になる。
「貴様にしてはいい判断だな」
「そうでしょう? だから鶏小屋を作れないかと思って」
腕を組んだキースが不意に柔らかく笑う。キースが笑うと、妙に落ち着かない気分になるので苛立つこともあるのだが、暗い目をされるよりはましだ。
キースが暗い目をする理由をサラギは分からないでいる。人間に毒を盛られ裏切られたときすら、淡々とした感情を抱いていたくせに、今苦しそうな顔をするのは何なのか。
――魔法使いに殺されかけたからか?
親代わりであり仲間であり友人でもあったと、キースが語っているのを聞いたことがある。サラギにはそんな存在がいないので、キースの想いなど欠片も分かりはしないが。
――俺に屈したのなら、俺のことだけ考えていればいいものを。面倒なやつめ。
確かそれを、キースは愛だと言った。その意味は分からないが、口付けはそれを確認するものだと言ったのもキースだ。
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