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元魔王は愛がわからない・元勇者の事情
◇
どうして言えるというのだろう。
――触れるだけで欲情するなどと。
他の何に代えても、サラギと過ごす時間が欲しかった。だからマリーを悲しませワグを傷つけ人間をも裏切ったのだ。それは愛なのだと思った。サラギがいればそれだけでもう何も求めないと思ったのに、欲深い体が快楽を求めている。
それはキースにとって耐えがたい苦痛でもあった。
――違う、快楽が欲しい訳じゃない。
どれだけ言い聞かせても、サラギの手が肌に触れると欲望を煽られては声を殺さなければなくなる。
これではまるで愛などではなく、ただの欲ではないか。
それを吐きだす為の凶悪な感情に苛まれながら、キースは耐えることに必死だった。ともすれば暴走した欲でサラギを布団に縫いつけて、その中まで暴きたいと思ってしまって、そんな夜は隣で眠ることもできなかった。
そうやって耐えてきたことを、いとも簡単にサラギは超えてくる。
ベッドに投げられて服を剥ぎ取られたら、もう抗うことは難しかった。ひんやりとした感触の指先が肌に沈み込む快さを、知っている。
「キース」
少し掠れた声が耳元で囁いてくる度に体が震える。
耳を食まれてこぼれそうになる声を噛んでは指で口をこじ開けられ、隠している快楽の声を暴かれる。その度にサラギが満足そうに笑うことも、キースを煽った。
「まだ少ししか触れてないぞ」
羞恥を煽る言葉にだらしなく悦ぶ体を、本当は知られたくなどないのに、拒むことは難しい。
「っ……」
「もっと鳴け」
首筋に軽く歯をたてられ、たまらず布団の端を握る手をそのまま縫いとめられ、自由は奪われた。見下ろしてくる銀の目に欲望の熱を見て、キースはもうかなわないと息を吐いた。
このサラギの目は、他にないほど美しいのだ。
欲望にみなぎった、サラギの熱がこもった目から逃れられなくて、押し倒され貪られる屈辱にすら耐えてしまうのだ。
――そうでなければ、誰が男になど。
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