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元勇者の事情
「この前?」
「貴様を一度抱いたときのことだ」
あの時のことは、正直詳しく覚えていない。魔王を殺して自分も死のうと覚悟を決めていたあの時は、魔王の動き一つ一つについていくだけで必死だった。こんな風に魔王の膝に乗っていた気もするし、そうでなかったような気もする。
なぜこの態勢になったのだったかと逡巡する間に、サラギの手が尻の孔を揉む。
「ちょっ、あの、急に」
「軟膏を塗っている。痛めると貴様はすぐ炎を呼ぶからな」
いつの間に軟膏など手にしていたのかと舌を巻くが、そんな余裕はすぐに奪われた。とがった爪先が刺さらないように気を付けているのか指の腹で丹念に軟膏を塗られて、その場所がしびれるような感覚になる。
「こんな、こと」
「またそれか。俺にならば抱かれてもいいのだろうが」
「そ、う、ですけど」
「今日は中に注ぐ」
はっきりと言い切られて、もう逃げられないのだと知る。魔族と交わったらどうなるかなど、キースには分からない。女ではないので子を孕むことはないだろうが、それでも少し恐怖はある。けれど、それを凌ぐ快楽と欲望に支配されてしまえば、抗うことは難しい。
「あ、やめ、サラ、ギ」
「やめん」
軟膏を塗り込む指を一つ二つと狭い場所に咥えさせられて異物感に息がつまった。思わず目の前の肩に噛みついて、怒られた。
「食うな」
「んっ、でも」
「鳴けと言っているだろう。何故そうも声を噛む?」
「いっ、あ、嫌、だから」
「また人間の羞恥か――いや違った、元勇者の矜持とやらだったな」
矜持――今はそんな言葉が異国のものほどに遠い。
「抱くぞ」
低い声が耳元で囁いて、そのまま貫かれる。指などとは比べようもない異物感に貫かれて、勝手に体がそりかえり、声が漏れた。
「あ――っ、いや、だ、苦っ」
「音を上げるのが早いな。キースともあろうものが」
くつくつと喉の奥で笑うサラギは咥えさせた自身を更に奥へと穿っては荒い息を吐く。その乱れた吐息が扇情的などとは、思いもしないのだろう。けれど、それが更にキースを煽りたてるのだ。
「あっ、ああ、いや、奥っ」
「最奥に注いでやる」
ぞくぞくと背中から粟立ってキースは震える。求められる快楽は何物にも代えがたい。これ以上、はしたなく求める声が漏れぬように、ぎりとサラギの肩を噛んだ。
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