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彫り物
何故、キースはこんなにも山鶏にこだわるのだろうと疑問だ。以前、食器を買わせたときには金がかかると文句を言われたから、今回はサラギ自ら金を稼げるように売る物を用意してやろうとまで言ったのにだ。
――金の問題ではないということか。
だとしたら、考えられるのは一つ、サラギ一人をこの島に置いて市場へ出かけるという行為そのものだろう。少しの魔法が使えるようになったことを警戒されていることも知っている。魔法力を使いこなせるようになるにはまだ時間が必要だが、体の中に魔法力を取り込むやり方が最近なんとなく分かるようになっている。
それにキースは気付いているのだろう。
「俺を一人にすると、何をするか分からんからか?」
「はい? あー……そう、そうですね、それもありますけど」
キースは手にしていた木の実の殻を机に置くと、そっと首を傾げ独り言のように呟いた。
「私は、人と関わっていいのだろうか」
人と関わる、それは人間として当然の行為だろうに。サラギにはキースの言っていることがよく分からなかった。こんな無人島にひっこんだのは、人との距離をおきたかったからだろうということは分かっている。それでも必要とあれば買い物くらいはしていたのだ。
それを今更――。
――ああ、俺を選んだからか。
人間を苛んだ元魔王を欲し、こうして側にいる。それは魔法使いに言わせても「人間への裏切り」だ。キースが背負い時折押しつぶされそうになっている大きな荷物。サラギにはその重さは分からないし理解しようとも思わない。そんなことよりも選んだ今が満たされればそれでいいし、それが選ぶということだ。
――だが、キースはそうもいくまい、か。
ほとほと人間とは猥雑で面倒だ。
「キース。貴様は人間と関わりたくないのか」
「そうではなく、関わるべきではないと」
「誰がそれを決める」
「……それは、私の、勇者としての」
「またそれか。いつまで勇者面をしているつもりだ。魔法使いにも断罪されただろう。貴様はただのキースだろうが」
「それでも」
柔らかい笑みを乗せるキースの顔が暗く曇る。こうさせているは自分なのだと思い知らされているようで、サラギはこの顔を嫌だと思った。
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