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彫り物
「とにかく。人間界では売れるんですよ、貴方の方が早いんですから彫ってください」
そう言いながらキースは彫り上げた蝶らしきものをサラギに渡してくる。受け取ってまじまじと見つめながら、サラギは首を傾げた。
「これが蝶か?」
「蝶でしょう? 模様のある羽が二枚と小さな体に長い触角。モチーフなのですから、この程度でいいですよ」
「こんなものが蝶であるか」
「は」
――。
……。
しばらく顔を見合わせて黙り込んだが、そのうちキースがそっと口を開く。
「貴方の言う蝶って、どんなのです?」
「羽はこんなに大きくない。背中に飾り程度だ。あと、手足がもっと大きいだろう、そもそもこの洞窟にも入りきらない大きさだというのに、そんなものをよく装飾にしようなどと思うな。だいたい、毒液を吐きだす口はどうした? 触れるだけで体を溶かす毒の……」
そこまで語ったところで、キースに口を塞がれた。
「ああすみませんでした、はい、よく分かりました、貴方、人間界の蝶を見たことがないんですね。まさか魔界ではそんな恐ろしいものだったなんて」
「人間界のは違うようだな」
「美しいですよ。羽の模様や色が様々で、飛ぶ姿も優雅です。この島にもいそうなものですけどね。寒い場所には居つかないらしいので、今はいないかな」
「羽に模様、か」
「種類によっては硝子のような風合いですから、貴方は好きなんじゃないですかね」
そこまでキースが言うからには見てみたくなる。羽の模様について細かく聞いていたら、キースは疲れたように息をついた。
「今度、図鑑買いますね」
だから、とキースは木の端切れを山ほど、サラギに渡してきた。
「図鑑高いので、頑張って彫ってくださいね」
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