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元魔王は愛がわからない・魔法使い
久しぶりに市場へ向かう日、キースは酷く無口だった。淡々と準備を整え、サラギにはいつものように魔法力の結晶を渡してくる。
魔法力を己に取り込むこつが少し分かっているので、本当は結晶を必要としないかもしれないと思ったが、黙って受け取っておいた。
「じゃあ、私は出かけますね」
表情もなくサラギを見たキースを、抱き寄せて唇を吸う。唐突なサラギの行動に反応しきれなかったのか、キースは易々とサラギの胸に転がり込んできた。
「んっ」
ようやく我に返ったかのように首を振って逃れようとするが、もう遅い。顎を掴んで固定した顔を逃すはずがない。深く深く口付け、キースが諦めたように抵抗をやめた頃、やっとその口を解放してやった。
「何ですか、急に」
「いや、貴様が敵でも殺しに行くような顔をしていたからな。欲情した」
「……何言ってるんですか……でも、そうですね、ありがとうございます。私、商売に行くのでした」
ようやくキースに笑顔が戻り、サラギはそっと安堵する。そして安堵した自分の感情がよく分からなくて困惑した。
キースが険しい顔をするのは悪くないと思っている。それでも、今はあんな顔で人間の元に行かせたくなかった。その理由が、自分でもよく分からない。
「じゃあ、私行きますね。いい子にしててください」
子供のように頭を撫でられ
「さっさと行け!」
怒鳴りつけると、キースは面白そうに笑いながら移動魔法で消えてしまった。
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